レポート
「事業継承~継続と成長~」をテーマに話し合うセッションでは、聖心女子大学現代教養学部教授大槻奈巳氏が進行を務めました。事業継承を含め多種多様な経験を持つ3名の女性経営者を迎え、継続と成長の可能性を探っていきます。
「私の経験は非常に複雑で、端的に言うと『焼肉』と『AI』をやっております」と語るのは、シルバーエッグ・テクノロジー株式会社取締役・共同創業者にして、大同門株式会社代表取締役社長のフォーリー淳子氏です。パートナーとAIマーケティング会社を経営する傍ら、民事再生に至った家業の焼肉店チェーンを買い戻し、ターンアラウンドを手掛けています。
「父に『お前が男だったら...』と言われて育ったので、家業には関わりたくなかった。ところが会社を売却する事態に直面した時、厳格な父が初めて私の前で涙を流して。『大同門を存続させたい』という使命感が生まれました」
「長年継承してきた父のビジネスモデルを、コロナ禍を機にリブランディングしました」というのは、ビジネスホテルチェーン株式会社東横イン代表執行役社長黒田麻衣子氏です。新卒入社するも一度は退社し、社長を引き継ぐ数年前までは専業主婦だったといいます。
「不祥事を受けて父が会長を退くことになった時、『私があるのはこの会社のおかげ、私がやるしかない』と申し出ました。継ぐまいと思っていたし、『継いでくれ』と言われたこともないですが、やはり使命感で継いだのかなと」
「レコード針で有名な会社だったのですが、音楽の聴き方が変わっていくなかで多角化し、今は売上の8割強が半導体関係部品、金属加工部品、マグネット部品に」と語るのは、株式会社ナガオカ代表取締役社長の長岡香江氏です。
「9年前、身内の急逝で取締役になりました。それまでは専業主婦だったし、経営者になるなど考えたこともない状態。自信はなかったけれど、レコード針では世界で9割超のシェアを持っているので『会社がなくなったらレコードを聴けなくなるんじゃないか』というお声を聞き、大変なこともあるだろうけれど『走りながら考えよう』と今日までやってきました」
3名のお話を受け「家族を想う使命感だけではなく、サービス・製品を世の中に出し続けていく使命感もあったのでは」と大槻氏。事業継承後の「変革」の苦労話などをはさみつつ、「経営の面白さ」を聞き出していきます。
フォーリー氏はまず、お金のためだけではないと断言。「社会に価値を提供し続けられているか。その成績表が決算書であり、如実に出てくる。『自分の考えたことを、組織を通して表現できる』ところは面白いですね」
黒田氏は、”面白さ“に通じるやりがいとして、従業員への感謝の言葉を挙げています。「コロナ禍で宿泊療養施設として貸し出した時も『このようなことができる会社を誇りに思います』と言ってくれた従業員がいました」
長岡氏も「社員にいい会社だねと褒められるのがうれしい」と語る様子を聞き、大槻氏は「皆さん『自分がやりたいことができた』などではなく、社会貢献や、想いが反映されることがやりがいにつながっている」と感心しきり。ここで話は「人事面で成長のためにとった施策」に移ります。
フォーリー氏は「あなたのお家が最高でも、社員には関係ない。それが社員にとってどういう意味があるかを考えて」とアドバイスを受け、社員一人ひとりに自社の企業理念がどういう意味をもたらすのか丁寧に説明し、言葉にし続けるようになったといいます。
黒田氏も、言い続ける重要性を痛感していました。「私たちは支配人に『あなたがホテルの社長です』と言い続けています。でないと悪い意味で『サラリーマン化』してしまう。ある程度の権限も責任もある立場で、自分で考えず本社の意向をうかがうようでは駄目ですし、逆に本社へ意見してくれるぐらいでないと」
長岡氏も「なるべく面談をして、現場の声を聞いて。耳の痛い意見もあるなかで、それを課題として『どういい会社にしていくか』に取り組んでいます」と続きます。
セッションの最後は、参加者へのメッセージで締めくくられました。
フォーリー氏が紹介したのは後漢書の一節「疾風に勁草を知る」。「勁草というのはしなやかな草で、疾風に吹かれても折れない。どんなに苦しいことがあっても、『私は勁草だ』と思って」
黒田氏のメッセージは「見方を変える」。「私は子育てで、食事会などへ顔を売りに行けなかったのですが、女性経営者が少ない時代で、逆に1回行けば覚えてもらえた。このように、ともすると弱みになることは、考え方・見方を変えて強みに変えていける」
長岡氏からは「ピンチをチャンスに変えて頑張っていきましょう」という言葉が。「女性は結婚や出産という大きなイベントがあって、予測のつかないことも多いけれど、その時々を楽しんで。精いっぱいやれば必ず悔いのない人生が送れる」
しなやかに、ピンチもチャンスに変える柔軟な視点を持って。女性経営者たちの真の「強さ」を垣間見ることができたひとときでした。
神戸女学院大学卒業後、大阪府知事付通訳を経て会議同時通訳者として活動。33歳でオンラインデータベース会社を起業し、1998年にはAI技術のシルバーエッグ・テクノロジー㈱を共同設立、専務取締役&COOとして業務に従事。2016年に同社は東証マザース上場。
2010年、家業の「焼肉の大同門」をファンドから買戻し社長就任。2015年にシルバーエッグ・テクノロジー専務取役を退任し、共同創業者となり、2021年3月に取締役就任。
大阪イノベーションハブ(OIH)メンター、日本ホスピタリティ推進協会理事、関西経済同友会常任幹事。2025年国際博覧会協会理事、等
慶應義塾大学卒、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修了後、外資系金融機関に勤務。
2014年ナガオカ取締役。2015年ナガオカトレーディング及びナガオカ精密の代表取締役に就任、2016年ナガオカの代表取締役に就任。東大EMP修了。
ダイヤモンドレコード針の世界ナンバーワンブランドとして生産量トップシェアを誇るナガオカを事業承継、難削材の精密加工部品製造など多角化を推進する一方で、新ブランド「MOVIO」「LUSVY」を立ち上げ、ドライブレコーダー、ワイヤレスイヤホン、美容製品などを展開。アナログレコード文化を支える活動に取り組んでいる。
2018年 日本オーディオ協会「音の匠賞」受賞。
2020年度ダイヤモンド経営者倶楽部「特別賞」受賞。
一般社団法人日本オーディオ協会理事、株式会社鳥貴族ホールディングス社外取締役。
聖心女子大学を卒業後、立教大学大学院でドイツ近代史を専攻。父、西田憲正氏が創業した株式会社東横インに2002年入社。
出産・育児のため退社後、2008年に 副社長として復帰し、2012年に社長就任。
社長就任10年目となる2022年、新ブランドコンセプト「全国ネットワークの基地ホテル」を掲げて ブランド再構築を宣言し、ビジネスホテルのパイオニアとして、さらなる進化を目指す。
2020年 毎日新聞社主催「第40回毎日経済人賞」受賞。
2001年上智大学大学院文学研究科社会学専攻修了(社会学博士)。専門は社会学、労働とジェンダー。
著書に『職務格差』(2015年、勁草書房)、編著に『派遣は本当に自由な働き方か』(2023年、青弓社)、共著に『同一価値労働同一賃金の実現』(2022年、勁草書房)、『なぜ女性管理職は少ないのか』(2019年、青弓社)、『ジェンダーで学ぶ社会学 全訂新版』(2015年、世界思想社)、共編著に『大学生のためのキャリアデザイン入門』(2014年、有斐閣)、など。
開催日時 | 2022年11月20日(月)13:00-18:10 |
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会場 | 【リアルイベント】 東京国際フォーラムD7・G404・G405・G407・G408(東京都千代田区丸の内3丁目5−1) 【ライブ配信(オンライン)】 ZoomとYouTubeによるライブ配信 |
対象 | 企業・団体の代表者、経営者層、個人事業主など(男女不問) |