東京都女性経営者会員登録はこちら

Follow us

  • Facebook
鎌倉 千恵美さんお写真01
アガサ株式会社 鎌倉 千恵美さんインタビュー

「薬を届けることの重要性と課題を知ってもらえて嬉しい」と受賞の喜びを語る、第5回東京女性経営者アワード[継続成長部門]受賞のアガサ株式会社の代表取締役社長 鎌倉 千恵美さんを取材しました。

東京女性経営者アワード
継続成長部門受賞

世界中の人々の健やかな人生のためにできることを
アガサ株式会社 代表取締役社長 
鎌倉 千恵美さん

2025.03.07

医療機関や製薬会社のユーザーが治験・臨床研究の文書をクラウドで管理できるアガサのシステム。「1日も早く患者さんに薬を届けること」をミッションとしているアガサ株式会社 代表取締役社長の鎌倉 千恵美さんに、ビジネスの原点とこれまでの歩み、今後の展望を語っていただきました。

日本は医療先進国ではない

鎌倉 千恵美さんお写真02

現在、日本では薬を取り巻く環境に2つの大きな問題があります。一つはドラッグロスです。日本は医療先進国だと思っている人が多いと思いますが、実は世界で認証されている薬の約70%が日本では使えません。他国であれば治療できる病気が日本では治せないという事態が起きています。
そして、もう一つが医薬品供給の不安定さです。政府は医療費削減や患者の負担減のために「ジェネリック医薬品の使用割合を80%に」と目標を定めましたが、ジェネリック医薬品はメーカーにとって利益が出にくいビジネスです。薬価が低いことにより赤字品目が増え続けている状況のため、メーカーは製造コスト削減にシフトします。その結果、品質の低下や最悪の場合、品質不正につながる恐れがあり、業務停止となる場合すらあるのです。これらの事柄を要因に、現在メーカーの生産キャパシティは低下してきており、供給の不安定さを招いています。医薬品が本当に必要な人に届かないという事態が起きうるのです。
こうした二つの問題があるということを、今回の受賞を通して知ってもらえたらと願っています。

鎌倉 千恵美さんお写真03

また、そもそも日本では治験や新薬の承認に多くの時間がかかります。そこに課題を感じたのが私の起業のきっかけでした。
私は前々職で日立製作所の新規事業開発を担当し、日立総合病院に行くことがありました。2007年頃に会議室に入ると、高さ30センチメートルはあろうかという文書の束が会議出席者の20人分用意されていたのです。「これは何か」と尋ねたところ、製薬会社から送られてくる治験のデータとのことでした。膨大な紙の資料ですから台車で運ぶのも大変ですし、院外の医師に郵送するのも大きな手間です。1回の治験でこの分量のため、保管場所にも当然困ります。しかも処分するときはシュレッダーではなく、溶解処理をしなくてはいけないルールがありました。何よりこんな膨大な紙の資料を多忙な医師が読める時間はあるのだろうかという疑問を感じました。

しかし、当時はデータをクラウド化して管理するとなると、システム導入に2億円はかかるという試算でした。よほどの大病院でなくては導入不可能な金額です。また、当時はやっと電子カルテが普及しはじめた頃で、医師の診察時間を削ってまで、新しいシステムに習熟してもらうのは現実的ではありませんでした。
その後、私は製薬企業向けの文書管理システムを手がけるアメリカのネクストドックスに転職し、日本支社代表を務めました。ここでクラウドサービスの存在を知り、数千万円でシステム導入ができると分かりました。ただ、ネクストドックスはアメリカのシステムですから、全世界にフィットしているものではありません。もう少し各国に向け、システムをカスタマイズできないだろうか──と考えていたときに突然、アメリカ本社が他社に買収され、私を含む日本支社の全員が解雇されてしまいました。

起業するのは「私の使命」だと思った

突然の解雇でしたが、同時に起業するなら今だという思いが湧き上がってきました。自分が何十年も温めてきたアイデアですし、医療関係者にとってニーズがあるのは間違いありません。ビジネスを展開するには国内外の現状を知っている必要がありますが、自分ならそれが分かる。起業は「神様が私にやれと言っている」と思い、使命感を持って2015年にアガサ株式会社を設立しました。
ただ、私は営業することはできますが、プロダクト開発はできません。そこでネクストドックスで同僚だったフランス人のエンジニアに声をかけたところ、「ぜひ、やろう」と快諾してくれました。ほかにも元同僚のチュニジア人、スウェーデン人のエンジニアが参加してくれて、4人で創業することになりました。アガサのシステムは、各国への互換性が低くなるアメリカ開発や、またガラパゴス的な発想を元に開発を進める日本ではなく、欧州各国に汎用性のあるシステムを作ることができそうなヨーロッパで開発するほうが全世界に受け入れられると考えていたので、彼らが引き受けてくれたことは非常に大きな意義がありました。
また、最初から日本と海外を拠点に起業したため、仕事は基本的にリモートワークです。女性が子育てをしながら働きやすい環境なので、多くの優秀な人材が集まってくれています。

コロナをきっかけにシステム導入が進む

鎌倉 千恵美さんお写真05

起業してから大変だったことは語り尽くせないほどありますが、まず大きかったのは医療現場の方の意識改革です。私たちからすると、アガサのシステムが便利であることは間違いないのですが、現場の方からは「今までどおり紙の文書管理でいい」と導入を拒絶されることが多々ありました。やはり世の中の古い慣習を変えることは難しいと痛感しました。
それでも諦めずに丁寧に説明を続けていきましたが、ひとつの契機となったのは新型コロナウイルス感染症の発生です。コロナ禍では感染防止のための医療機関への立ち入り規制があり、製薬企業の方が文書を院内に持ち込むことができず、医療関係者でも簡単に病院に入れない環境だったため、クラウドシステムである「Agatha」はそのような状況下にピッタリなシステムでした。人と接することなく、文書をシステムから取り出せるため、Agathaの導入は急速に進んでいきました。Agathaを導入してくれた医療関係者からは「導入前は会議前に徹夜に近い状態で資料をコピーしていたが、今は定時で帰れるようになりました」「Agathaのおかげでコロナ禍でも治験を中止せずに済みました」という喜びの声が寄せられています。

鎌倉 千恵美さんお写真05

現在、日本国内の医療機関でのシェアは約50%、製薬会社のシェアは約80%。世界16カ国でビジネスを展開し、過去3決算期の売上高に基づく成長率は175%となっています。今後はヨーロッパやアジア各国でトップシェアを取ることを目指していきたいです。
そのためにAIの活用を積極的に進めており、製薬会社の担当者が治験のデータをアップロードするときに自動で振り分けるシステムも開発しました。ちょっとしたことに思えますが、製薬会社の担当者は数十件の病院のフォルダにデータをアップしなければいけません。そのフォルダ名が病院ごとに1つ1つ違っているとなると、かなりの手間がかかります。そこをAIでサポートするだけでも業務時間の短縮となり、働き方改革につながると信じています。

やらずに失敗するより、やって失敗するほうがいい

鎌倉 千恵美さんお写真05

創業当時はスタートアップで、最初の1年半、自分自身はほぼ無休で走り続けました。私はマラソンが趣味でフルマラソンを走るのですが、ビジネスにも持久力が必要だと感じる日々でした。長く走り続けて創業から10年が経ち、今回の賞をいただき、「周りから見てしっかり認めてもらえる企業になった」ことが嬉しいです。ここまで来られたのは、難易度の高い仕事にも責任感を持ってやり遂げてくれる社員、アガサのシステムを「Agathaちゃん」と呼んで愛してくださるユーザーのみなさまのおかげと感謝しています。

鎌倉 千恵美さんお写真05

これから起業を目指す女性にアドバイスをするとしたら、「気楽にはじめてみては」ですね。私は何十年もアイデアを温め続けましたが、学生のうちに起業したり、副業としてはじめてみたりしてもいいと思います。会社経営で学ぶことは会社員とはまた違う種類の学びですので、そこから得るものが大きいはずです。不安や恐れはあると思いますが、何もやらずに失敗するよりも、やって失敗するほうがいい。もし、本当に失敗したとしても会社員に戻り、また起業するチャンスをうかがえばいいのです。
私も世界中の人々の健やかな人生のために走り続けたいと思います。

岩崎様お写真
鎌倉 千恵美
アガサ株式会社
代表取締役社長

名古屋工業大学大学院卒。総務省総合通信基盤局を経て、2001年に日立製作所に入社し、製薬・医療機関向けの新ビジネス・ソリューション開発を担当。2007年、米ライス大学でMBA取得。2011年に製薬企業向け文書管理システムを展開する米NextDocsの日本支社代表に就任。2015年10月にアガサを設立した。趣味はマラソン。

東京都女性経営者会員登録はこちら

Follow us

  • Facebook