セミナー
日時 | 2024年12月13日(金)10:30〜12:30 |
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講師 | 株式会社A&I 代表取締役 岡 美智子 |
進行 | 一般社団法人WE association 理事 株式会社A&CO 代表取締役社長 三竹 麻子 |
「TOKYO女性経営者塾 by N E W」テーマ型セミナー、2024年度5回目のテーマは「資金調達は必要? ~あなたにあった調達方法は?~」です。起業家やベンチャーの志を投資家につなぐコミュニティを運営する、株式会社A&Iの代表取締役 岡 美智子さんに、資金調達の方法や選び方などについてお話しいただきました。
講義の冒頭にて、資金調達の方法を列挙したスライドを提示しつつも、手段はたくさんあるがそれをすべてメモして調べる必要はないと言う岡さん。その真意からお話が始まりました。
「起業家として知っておいていただきたいことの一つに、ジャムの法則があります。1995年にコロンビア大学の教授が行ったジャムの購入率の実験です。6種類のジャムが置いてあるAグループと、24種類のジャムが置いてあるBグループ。同じ時間帯に同じ場所で、どれくらい購入率が変わったかというものなのですが、実はかなり差があって、6種類のジャムのほうが10倍売れたのです。人は選択肢が多いと迷うという行動心理があります。選択肢が多ければ多いほど迷い、決断を後まわしにしてしまう。ですので、資金調達方法はたくさんありますが、一旦こういうのがあるよという全体像を知っておいていただければ大丈夫です」
資金調達方法については個別性がとても高く、一概には言えないもの。
「よくある起業家からの質問で『融資がいいのか?出資がいいのか?』と漠然と聞かれます。個別性が高いという前提があるので、私は『わかりません』と答えてしまいます(笑)。どこに行くか、その目的地にどういう方法で行くかが決まってないまま漠然と聞かれるのは、『どこかに行きたいんだけど、どうやって行けばいいか?』と聞かれるのと同じことです。たとえば大阪に行きたいと言ってくれれば、新幹線や飛行機、なんなら徒歩やヒッチハイクでも行けると提案ができます」
漠然と資金調達について考えるのではなく、まずは自分の事業の目的地と、そこへの行き方を決めることが大切だと岡さんは強調します。
起業にあたって資金調達を考えたとき、まず自分のなかで決めておいてほしいことが二つあるといいます。
「一つめは、『目的地』。月商50万円でいいのか、1,000万円か、それとも100億円や1兆円を目指すのかでまったく違います。例に出してよくお話しするのが山登りなのですが、浅草にある待乳山は標高約9.9メートルの小さい山です。今から行くとなれば、そのままの服装で気軽に行ける気がしますよね。ヒールを履いていても行けそう。ただ、富士山に行こうとなったらそうはいきませんよね。装備も必要ですし、雨風をしのぐなどのサバイバルグッズも必要になる。要するに、ビジネスでも目的地が違えば準備の内容も違うということです。なので、現時点での目的地をしっかり決めておくことで、どのような資金調達の方法を選べばいいかが逆算できます」
二つめは、目的地にどうやって行くか。
「たとえば今から東京タワーに行くとします。方法としては、電車やバス、自転車やタクシー、時間はかかりますが徒歩でも行けます。選択肢がいっぱいありますよね。お金をかけずに徒歩で行くのもいいですし、時間を節約したいからお金を払ってタクシーに乗るのもいい。ただ、目的地がニューヨークとなったら話は別です。船でも行けそうですが時間もかかるし現実的ではない。飛行機であれば13時間くらいで着きます。でも飛行機は自分では操縦できないので、自分の好きなときにすぐ乗れるというわけにはいかない。そうなんです、誰かの力を借りないと、一足飛びで行けないんです」
極論ではありますが、「自力で行く場合は融資、誰かの力を借りて一気に行きたいときは出資」とたとえる岡さん。
資金調達の考え方の本質は「時間とお金」であり、お金をかけずに時間を使うのか?お金をかけて時間を買うのか?のどちらかの選択であるということがわかりました。
融資と聞くと、「やはり借金だし怖い」というネガティブなイメージもあります。
しかし、たとえば1億円の売上を目指している人が300万円の融資を怖がるのはおかしいと言う岡さん。
「貸す側からすると、1億円の目的地があるなら、今300万円借りて人を採用したり、Webサイトを作ったりして一気にゴールを目指せばいいじゃないって思うわけです。そこで、経営者脳に切り替えられていない人は、300万円をただの借金としか捉えられなくなってしまう。特に女性は恐れがちですが、将来的にビジネスが大きくなるという自信や根拠があって目的地を決めて計算しているのであれば、『私にいくら融資してくれるんですか?』くらいの気持ちで臨んでもいいわけです」
そこまでのマインドセットを整えるのはなかなか難しいかもしれませんが、経営者脳に切り替えるという意味でとても説得力のあるお話が聞けました。
さらに講義は、スモールビジネス(先ほどのたとえ:東京タワー)とスタートアップ(先ほどのたとえ:ニューヨーク)の説明を経て、いよいよ目的地に向かうための選択肢である出資と融資の話へ。
特に出資の部分では、エンジェル投資家、VC/CVC、事業会社、サーチファンドなどさまざまな種類の詳細を簡潔に説明していただきました。
そのうえで、ぜひ紹介したいのが公的な支援という岡さん。首相官邸や経済産業省のWebサイトにしっかり情報がまとまっているそうです。
「公的支援としては、中小機構を所管する経済産業省がメイン。「METI Startup policies(スタートアップポリシーズ)」を見ていただくと、69の支援策の一覧が載っています。このほか、文部科学省や総務省、内閣府や国土交通省も支援を行っています。たとえばドローン事業をされている方にとっては馴染みが深いかもしれませんが、どこに飛ばすかなどは国土交通省の管轄だったりしますよね。ですので、みなさんのビジネスに関わりのある省庁で創業支援を検索していただくといいと思います」
さらに東京都の支援にからめて「創業サポート2.0」事業の紹介も。
「創業サポート2.0」の支援を受けることで、融資をしている金融機関の紹介で金利や保証金が安くなったり、中小企業診断士の無料相談が受けられたりと、手厚いサポートが充実しています。
このような公的支援を活用しながら、自身の事業のブラッシュアップにつなげていただきたいという言葉で講義は締めくくられました。
岡さんと進行の三竹さんは普段から交流があることもあり、トークショーも大いに盛り上がりました。
そのなかで三竹さんから「出資を受けた場合、投資家さんからどれくらい事業に口を出されるものなのか」という質問が。
「投資家さんもタイプはさまざまです。よくあるのはハンズオン、ハンズオフ、ハンズイフの3つのタイプ。ハンズオンが、いわゆる事業を一緒に成長させよう!というタイプ。ハンズオフは、お金は出すから後は頑張れ、ただ業績の報告などはちゃんとしてね、というタイプ。そしてハンズイフは、常に事業に伴走しているわけではないけれど、何か困ったときに相談してくれれば助けてあげるよ、というタイプです」
そこから、融資か?出資か?の見極めにも役立つ話につながりました。
「融資の場合はお金を借りたら返す義務は発生しますが、事業には口を出されないので自分の好きにできます。出資の場合は、お金を出す側にはもちろん目的があって、自分が出した500万円が5,000万円になるのか?1億円になるのか?みたいな希望があって出資をします。なので事業に口を出したくもなります(笑)。ただ事業家・投資家の方は、ご経験や知見をたくさんお持ちですから。ご指摘を受けたり教えていただいたりしたものを起業家が受け入れられるか次第。性格的に誰にも何も言われたくないという方には、出資はおすすめしません。もしくは出資を希望するのであれば、ハンズオン以外の方を探すといいですね」
会場・オンラインの参加者からも積極的に質問が届き、そのなかには「投資家の方は、起業家のどこを重視して投資の判断をするのか」というものが。
「投資家さんにもよるので、一般論にはなりますが、出資をするインセンティブというのは二つあって、一つめは『ファイナンシャルリワード』。いわゆる経済的な報酬がどれくらい返ってくるか。もう一つは『エモーショナルリワード』。感情的な報酬ですね。たとえば小さいころは宇宙開発に憧れていたものの、仕事に追われて60歳になり、お金はあるけど人生つまらない……と思っている人の前に、『火星にこんなものをつくりたい!』と言っている若者が現れたら、おもしろいな、支援したいな、という気持ちになりますよね。これは一例で本当に投資家さんによります。ただ起業家としては、投資家へピッチする際にどちらの報酬も見せられるように用意しておくべきだと思います。お話ししているとわかると思いますよ、この投資家の方はどちらの報酬に重きを置いている方なのかは」
起業家と投資家をつなぐ仕事をしている岡さんだからこそ見えてくる意見に、参加者のみなさんも頷きます。
「このように一概には言えませんが、お金を出してあげたい、応援したいと思わせる魅力が重要。私の存じ上げているエンジェル投資家の方は、みなさんそれぞれ違う言葉でおっしゃいます。『巻き込み力』とか『営業力』とか『ビジョンが大きい人』とか。表現の仕方は違いますけれど、投資家の方たちが見ている本質は一緒かなと感じています」
止まることなく白熱するトークショーと質疑応答の時間が過ごせました。
資金調達の前に何を考えておいたほうがいいか、そして自分にあった方法をどう選んだらいいか。参加者はそれぞれに多くのことを感じて学び、持ち帰るものが多いセミナーとなりました。
石川県出身。立命館大学卒業。
在学中に UBC(ブリティッシュコロンビア大学、カナダ)に留学。 卒業後は、スターバックスコーヒージャパンに入社、新店舗立ち上げ、人材育成等を経験後、P&G、アストラゼネカ、医療機器メーカー、薬事コンサルと外資系企業で経営企画、マーケティングに携わる。
スターバックスコーヒージャパンでストックオプションを得たことがきっかけで始めた株取引の趣味が高じて、独立後に株スクールの講師を務めたのち、2020年2月株式会社A&Iを創業。
「エンジェル投資家の存在が当たり前の社会に」を掲げ、起業家やベンチャーの志を投資家に繋ぐコミュニティを運営。
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授
KDDI、マイクロソフト、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立、株式会社A&COを創業。
社会人大学院の女性キャリア支援からスタートし、キャリアコーチサービス「Good Coach」を運営。企業の女性管理職育成や男性管理職のマインドセットにコーチングで成果をあげてきた。
2023年業界専門紙数社と一般社団法人WE associationを設立、DE&Iに関する企業支援の幅を広げている。