セミナー
日時 | 2023年12月27日(水)14:00〜16:00 |
---|---|
講師 | 株式会社メディアジーン 代表取締役 CEO 今田 素子 |
進行 | 一般社団法人WE association 理事 株式会社A&CO 代表取締役社長 三竹 麻子 |
「TOKYO女性経営者塾 by N E W」テーマ型セミナー、2023年度2回目のテーマは「組織力向上の鍵!仲間と挑む成長企業のプロセスの共有」です。1998年に創業し、25年にわたりメディア事業を拡大させ続けてきた株式会社メディアジーン 代表取締役 CEO 今田素子さんに、そのビジネスモデルや組織づくりなどについてお話しいただきました。
株式会社メディアジーンは、米テックメディア『Gizmodo』やビジネス・経済メディアの『Business Insider』の日本版などをはじめ、現在17メディアを運営しています。そんな今田さんの起業のきっかけは、紙媒体の雑誌でした。
「インターネットが日本で初めて商用接続された翌年の1994年に、『WIRED』というアメリカの雑誌の日本版を発行することになりました。その雑誌は、インターネットでどう世界が変わるかということを報じているもので、それを見ているうちにもう情報は紙からデジタルに変わると確信し、1998年に起業したんです。以来、メディアからの情報発信と、企業のデジタルコミュニケーション支援の2本立てで会社を運営してきました」
いち早く時代の変化を見極め、一念発起で起業した今田さん。創業25年目にあたる2023年5月には、台湾のメディア企業と経営統合しています。台湾の企業が持つメディアのテクノロジーを生かし、メディアを増やすことはもちろん、それぞれのメディアに横串を通してアジア全域に展開しようとしているとのこと。
「事業を拡大させるために自分たちで売上を上げるだけにとどまらず、成長している市場に対して新たにアプローチしていきたいですね。たとえば、東南アジアのミレニアル世代に向けたメディアを提供して、そこのマーケットに対して『モノを売りたい』『情報を伝えたい』と思っている企業のデジタルコミュニケーションを支援するなどです」
話題は、今田さんが事業を行っていくうえで大切に感じていることへと移ります。
事業において大切なポイントは、「ビジネスモデル」「組織」「カルチャー」と語る今田さん。
「一つめは、ずばり『ビジネスモデル』そのものです。売上を上げる、事業を成長させる、サステナブルに企業を続けていくというさまざまな視点がありますが、そのビジネスモデルがどういう仕組みでどういう価値を提供して成り立つのかというのが大切です。それが横展開していけるのか、その市場自体が大きくなっていくのか……など、いろいろな成長の仕方があると思いますが、やはりそのビジネスモデル自体がすごくしっかりしていることが一番重要だと思っています。いろいろな起業家の方たちとお話ししていると、勉強になることがすごく多いんですよね。ビジネスモデルをどうつくっていくかと話すなかで、自分からもアイデアがどんどん湧いてきます」
「二つめは『組織』、三つめは『カルチャー』です。どんな組織にしたいか、どんなカルチャーでどうしていきたいかというのは、最初に挙げたビジネスモデルとひと続きだと考えています。何に強い組織にしたいのか。どういう組織であればこのビジネスモデルを成功・実現させられるかということが大切です。さらにそこで働いている人たちがどういう人であれば、このビジネスモデルに共感してもらえて、長く働き続けてもらえるかということも含め、この三つの組み合わせがものすごく重要だと考えています」
企業を25年も継続させている今田さんが挙げる三つのポイントには説得力があります。長く続けて成功させるコツはあるのでしょうか。
「25年やっていると、失敗も何度もありました。失敗してはつくり直すというのを繰り返しています。時代がどんどん変わっていくなかで、その時代にフィットした形であるために常に工夫し続けています。働いているみんなが会社に価値を見いだしてくれるかどうかがすごく大切ですし、それが見えてくるとビジネスも上向きになる。バランスは難しいですが、これからも試行錯誤しながらやっていくと思います」
講義のあとは、進行を務める三竹麻子さんを交え、トークショーと質疑応答へ。三竹さんから、この出版不況におけるコンテンツ事業の伸び悩みについて言及があり、話題はコンテンツメディアのマネタイズについて波及します。
「おっしゃるとおり、もし利益だけを求めていたら、こういうビジネスはやらないよねという話をしているくらいです(笑)。ただ、私はやっぱりメディアをやりたいという強い想いがありました。まず心がけていることとして、会社を長く維持していきたいというのがあるので、そのためには成長を続けないといけない。常に新しいことをやらないといけない。そんな状況下でメディアビジネスをやっていて気を付けているのが、収益の源泉の分散化です」
収益では広告ビジネスが大きいというメディアビジネス。今田さんはどのように収益の源泉を分散させているのでしょうか。
「広告ビジネスは変動性が高く、特に不況に対してボラティリティーが大きい。不況になると多くの企業が広告予算を見直し、削減する傾向にあるので。そのため、Webサイトでの企業自らの情報発信の受託的なものとの組み合わせや、eコマースという形で消費者が物を買うときのプロダクションから入るとか、あるいはモノや記事を売るサブスクのようなものなど、さまざまな収益を編成してバランスをとっています」
確かに昔に比べるとサブスクが比較的受け入れられやすい時代になっていると語る三竹さん。そんなデジタル時代に、パブリッシャーが抱える課題へと話題は移ります。さまざまなアプローチ方法があるなか、うまくそこにミートできないパブリッシャーはどのようにすればいいのでしょうか。
「時代の変化を察知して、どうWebで展開したら自分たちのコンテンツを最適な形で届けられるかを考えないといけない。コンテンツは無くならないので、たとえばコンテンツプロバイダとして、あるいはキャラクタービジネス、そういった分野はむしろチャンスしかないですよね。収益のバランスに合わせて組織をどんどん変えていって、どこにフォーカスしてどういうことをするのかを考えている出版社はまだまだ成長していますし、逆に変えられなかったところは大変な思いをされている。出版業界に限らずどんなビジネスでも永遠に続くことはないし、競合も現れるし、テクノロジーは変わるもの。そういう意味で、時代に合わせてどんどん変わっていったり、次はどこにアンテナを張るかを見極めていったりする力が大切だと思います」
ここで、参加者の方から「メディアのあり方が紙からデジタルに変わるのは時代の流れだが、コンテンツそのものは変化するのか」という質問が。
「コンテンツそのもの=伝えたいこと。伝えたいことは変わらないですが、伝え方は変わっていくものだと思います。伝えたいことを伝わる形のコンテンツに変えて、きちんと伝えていくということを、いつの時代もやっていくのがとても大切。なので、時代を読むセンスというか、世間の人たちがどこに時間を使ってどのように情報を受け取っているのかを常に見て、それに合わせてコンテンツをつくっていく。その時代に合わせて変えながらやっていかないといけないですね」
どんな話題になっても、”時代に合わせて変えていく”ことの重要性を説く今田さん。常にアンテナを張り、届けたい情報をどうしたら届けられるかを考えることの大切さが伝わります。
終盤では、組織づくりの話題に。三竹さんから今田さんへ、事業における片腕的存在の仲間とどう連携をとれば事業伸長につながるかという質問が投げられました。
「やっぱり社長って大変ですよね(笑)。最終的にはやっぱり自分で決めないといけないし、どんなに有能な人が周りにいても同じレベルで責任を負っている人はいないわけですから。そんななかでいまは、片腕的存在が1人というよりは、会社の方針を含めて共有できる人たちが、5人ぐらいいるのが適切なのではないかと考えています」
人選の話から、質疑応答で採用の話題に。採用で人を見極めるためのポイントはどんなことなのでしょう。
「どのような人が必要なのかを見極めるために、事業の分解をしてみるのがいいです。どういうことをやれば事業が成立するか、どういうタスクが必要なのか。自分じゃないとできないことなのか、誰かに任せられることなのかという感じでいったん分解してみる。ものによってアウトソースできる部分はたくさんあります。そのうえで、絶対に雇用しないといけないのはどんな人なのかというのを明確にする。人の探し方は、なんだかんだ一番いいのはいろいろな人に会って自分で探す方法です。周りの人に『こういう人を探しています』って言ってまわる。物理的に出かけてもいいですし、SNSで発信してもいいですね」
その後も、投資家を入れるか入れないか、事業の領域の絞り方など、積極的な質疑応答が行われ、最後は参加者同士のネットワーキングにて幕を閉じました。
時代に合わせて事業や組織を変化させることの大切さや、確固たるビジネスモデルのつくり方を含め、試行錯誤を続けながら長年にわたり企業を継続させてきた今田さんの話が、参加者のみなさんの心に響いたセミナーとなったようです。
同志社大学経済学部卒業後、イギリスのSotheby’s にて History of Art course 修了。出版業界にて、書籍・雑誌の編集発行・海外版権交渉などに関わった後、1994年に『WIRED』ワイアード日本版の立ち上げおよびビジネス・マネージャーを務める。
その後独立し、1998年にオンラインメディア企業の株式会社メディアジーン(旧インフォバーングループ本社)を創業し、2015年にはデジタルエージェンシーの株式会社インフォバーンを新設分割により設立する。2018年1月−12月に電通総研フェロー就任。経済ニュースメディア『Business Insider Japan』、テックニュースメディア『ギズモード・ジャパン』、仕事ハックメディア『ライフハッカー・ジャパン』、インクルーシブな未来を拓くコミュニティ&メディア『MASHING UP』など17のブランドを運営。2013年には第1回Webグランプリ Web人部門受賞。2022年より経済同友会幹事を務める。
KDDI、マイクロソフト、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立、株式会社A&COを創業。
社会人大学院の女性キャリア支援からスタートし、キャリアコーチサービス「Good Coach」を運営。企業の女性管理職育成や男性管理職のマインドセットにコーチングで成果をあげてきた。
2023年業界専門紙数社と一般社団法人WE associationを設立、DE&Iに関する企業支援の幅を広げている。