セミナー
日時 | 2023年11月30日(木)16:00〜18:00 |
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講師 | mederi株式会社 代表取締役 坂梨 亜里咲 |
進行 | 一般社団法人WE association 理事 株式会社A&CO 代表取締役社長 三竹 麻子 |
「TOKYO女性経営者塾 by NEW」テーマ型セミナー、2023年度1回目のテーマは「なぜ経営者として『女性の健康』に向き合うのか」です。女性のキャリアを考えたとき、課題として挙げられる「女性特有の健康課題」について、経営者としてどう向き合っていくべきか、さらにフェムテック市場の現状など、オンラインピル診療サービス「メデリピル」を運営するmederi株式会社 代表取締役の坂梨亜里咲さんにお話しいただきました。
長年にわたる不妊治療の経験が原体験だと語る坂梨さん。「世の中には、お金や時間を使ってもなかなかうまくいかないことがあると痛感しました。ひとりでも多くの女性にこの事実を知っていただき、後悔のない人生につなげていただきたいといった想いから起業しました」
mederi株式会社のビジョンは「より女性が生きやすく、暮らしやすく、働きやすい社会へ」。ミッションは「忙しい女性でも簡単に健康管理ができる、誠実なプロダクト・サービスの提供」です。
「最初は、妊娠・出産準備として自宅でセルフチェックできる『腟内フローラチェックキット』と『葉酸サプリ』のブランド『メデリベイビー』を立ち上げました。ニーズはあるのにターゲットになかなか届かず苦しい時期もありました。現在の主軸事業は2022年に立ち上げたオンラインピル診療サービス『メデリピル』となっています。」
そのほか、医療・D2C・女性起業家軸のビジネスコンテストにも積極的に応募し、女性特有の健康課題について伝える努力もされている坂梨さん。
「『メデリピル』は、産婦人科へ行くのに抵抗があるという女性でも気軽に利用でき、医師もオンラインで育児をしながら仕事ができるため、女医の産前産後のキャリア形成にも一役買っています」
気になるのが、低用量ピルの服用率。日本は2017年の時点で服用率が3%程度ととても低い状況だそうです。
「諸外国では服用率が20%以上の国も多く、オランダやカナダは40%を超えています。実はオランダやカナダはジェンダーギャップ指数のランキングでも上位に位置しており、私たちは低用量ピルの普及がダイバーシティをつくっていくのではないかと考え、事業として推進しています。企業様向けの福利厚生プランとして『mederi for biz』も展開しており、企業にピル代を一部負担いただき、女性従業員の活躍を推進していただいています」
実は坂梨さんはイベント時、出産を間近に控えている状態でした。女性経営者として産前産後に空白の期間ができることをふまえた、従業員との向き合い方について話は進みます。
「これが創業1、2年目だったら、社長のライフステージが変わることを不安に思い、辞める従業員もいたかもしれません。いまは経理や労務などの管理部門も整っています。あと、今年新たに取締役が就任したのですが、その存在も大きいです。意思決定権を譲渡できる存在が社長不在の期間にいるということは、従業員のみんなが安心できるポイントかと思います」
起業したての頃とそれ以降では、従業員を採用する基準も変わったと話す坂梨さん。
「起業当初は、スタートアップに合った性質で、波に乗っていいバリューを発揮してくれる女性社員と二人三脚でサービスを構築してきました。馬力が必要なサービス立ち上げフェーズではメンバーも安定しない状況で、さらに女性しかいない職場だとうまくいかないことも多かったです。先ほどお話した取締役に抜擢した男性が加入してから、組織が調和され、メンバーも安定しました。彼はECの受託会社で事業責任者をやっていたので、事業計画を立てられる。そこを軸に選びました。予算をたてて計画どおりに遂行していくCOO的な役割の人がいれば、社長不在中になにか起きても軌道修正含めて大丈夫だろうと。お金を持ってくるのが得意な人も大事だと思いますが、まずは限られた予算のなかで事業計画を立てられる人がいることが大切だと考えました」
進行を務める三竹麻子さんいわく、DE&Iを取り扱っていると、男性の応募がなかなかこないという悩みもあるそうです。しかし、坂梨さんの会社は男女比が半々とのこと。男性の従業員と女性の従業員、それぞれ向き合い方のコツなどはあるのでしょうか。
「会社の成長とともに、女性の健康だけでなく男性やさまざまなジェンダーと向き合いたいという思いから、いまビジョン・ミッション・バリューを刷新しているところです。『女性』というワードがビジョンにもミッションにも入っていて、共感がむずかしい男性は多いだろうというのは感じています。やりたいこととしては医療をもっとスマートにしたり、身近にしたりすることだと説明し、男性も採用できるようになってきました」
「男性の従業員にはビジョンや数字で話をしますが、女性の従業員には数値的な目標というよりも『女性として私はこうありたいと思っている、そして社会にこういうインパクトを与えたい』という内容に重きを置いています。相手に対しても、将来的にどうなりたいかヒアリングして、そこに会社がどう貢献できるかというのを伝え、相手の人生を起点に考えて丁寧に自分ごと化しています」
現在は従業員数も40名近くになってきたというmederi株式会社。社長ひとりで全社員のマネジメントができない規模になってきたため、部長陣と連携して一人ひとりと向き合っているとのことでした。
「メデリベイビー」を立ち上げた1年目は大変な苦労をしたという坂梨さん。特に投資家の方たちからは、鋭く突っ込まれたといいます。そこで坂梨さんが工夫したのが、国が発表しているデータをもとに説明することでした。
「私のように原体験から起業する女性は多いです。投資家の方は、そこに本当にニーズがあるのかを気にしますよね。なので、国や専門機関が発表しているデータをたくさん集めて読み解き、事業計画を立てるときはそれをベースに数字を組み立てています。たとえばピルの服用率を3年後に10%まで引き上げるという目標を掲げたときに、どういう成長率じゃないといけないかという話になってくるので、会社としての目標設定にもデータはかなり有用です」
原体験から起業したこともあり、葛藤した経験も。
「1年目は『想い』だけしかなく、どれだけの女性を救えるのかというのが自分のなかで大事だったので、売上が一番にくるのは違う……となり、葛藤していました。投資家の方は、起業家が自分に合った路線で熱量を持って走り抜けるかどうかも見てらっしゃるので、熱量と事業計画の蓋然性というバランスが非常に大切。そこは、経営者としてこの5年で成長できたポイントかなと思います」
フェムテックは、言葉のブームが一頃より落ち着いてきた印象もあります。話題は、坂梨さんから見たフェムテック市場の伸びしろや可能性についてに移ります。
「大手が乗り込んでくると、やはりスタートアップは衰退していってしまうこともあります。結局どこまで柔軟に経営者として推進していけるかが重要だと思います。いざとなったらどう経営していくのか、逆にスタートアップだからできる強みを考えていくのがいいのかなと感じています」
経産省によると、2025年のフェムテック市場規模は約2兆円と予測されています。そのうちでもっとも大きいのは、1.3兆円を占める更年期分野。
「月経の分野に関しては、『生理痛は仕方ない』『生理ってこういうものだから』という固定概念がまだ残っています。妊娠・出産、そして更年期も『女性だから仕方ない』というところで詰まっている。そこの意識をどうケアにつなげるかですよね。特に更年期は個人差が大きいため、まだ私たちも踏み込めていません」
フェムテック市場のなかでも、更年期分野は開拓のしがいがある分野といえそうです。
坂梨さんがこれから目指していくのは、女性の健康だけでなく男性の健康にも貢献できる企業とのこと。
「女性の健康課題を『社会ごと化』するには男性からの理解も必要。私たちとしてはmederiという会社が『箱推し』されるいい会社だと世の中に認められるためにも、女性ならでは男性ならではの不調を理解し合っていけるように貢献していきたいです」
次の大きなステージに向かおうとしている意気込みが伝わってきました。
セミナーの終盤では質疑応答を経て、集まった女性経営者のみなさんのネットワーキングタイムに突入。女性経営者ならではの育児・仕事の両立に関する話題やマタニティ関連のサービス、更年期へのアプローチなど、みなさんの事業に対するさまざまな「思いの丈」があふれていました。これを機に女性経営者の横のつながりができ、新たな事業がスタートするのも夢ではなさそうですね。
明治大学卒業後、ECコンサルティング会社を経て、女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験。自らの不妊治療経験からmederi株式会社を設立。
オンラインピル診療サービス「メデリピル(mederi Pill)」、妊活サポートプロダクト「メデリベイビー(mederi Baby)」を展開。2021年より実業家・前澤友作氏が設立した前澤ファンドから出資を受けている。
KDDI、マイクロソフト、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立、株式会社A&COを創業。
社会人大学院の女性キャリア支援からスタートし、キャリアコーチサービス「Good Coach」を運営。企業の女性管理職育成や男性管理職のマインドセットにコーチングで成果をあげてきた。
2023年業界専門紙数社と一般社団法人WE associationを設立、DE&Iに関する企業支援の幅を広げている。