レポート
日時 | 2020年9月3日(木)15:00~17:00 |
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講師 | 株式会社シナモン 代表取締役社長CEO 平野 未来 |
進行 | 株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長、株式会社ユニカルインターナショナル 代表取締役社長 佐々木 かをり |
女性経営者をサポートする「TOKYO女性経営者塾 by N E W」。第2回の講師は、国内におけるAIソリューションのパイオニアであり、約100社の企業にサービスを提供し、内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に有識者として就任する(株)シナモン代表取締役社長CEOの平野未来さんです。学生時代の起業から挫折も味わい、新たなステージへ向かったその道筋や現在、今描く事業の未来像を伺います。
「AIは人の仕事を奪うと言われている側面もありますが、そうではなくAIが“サポートする”となれば、日本の働き方が変わります」
そう語る平野さん。さまざまな業界にインパクトを与えているのは、「非構造化データを理解できるAI」のサービスです。
企業内データの実に8割を占めているという“非構造化データ”とは、通話やメール、書類、画像などデジタル化されていない情報のこと。売上や顧客情報などデータベース化されている “構造化データ”と異なり、そこから意味のある情報を自動的に抽出することはできません。そこで非構造化データをAIに学習させてデジタル化し、各社の課題に合わせたソリューションを提供するのがシナモンの事業です。
「例えばある証券会社の例ですと、営業通話をテキスト化し、最初の2分は雑談、次の2分はマーケット情報、次に提案…などと、通話の中身を分類するシステムを構築します。こうすることで成績の優秀な営業マンとの差分が可視化され、アクションをレコメンドすることができます」
平野さんが最初に起業したのは大学院在学中のこと。WEB2.0到来の時代、現在では当たり前となっているターゲティング広告のシステムを作りますが、「タイミングが早すぎ、まったく売れなかった」。その後、モバイルでアプリを開発できるプラットフォームを手掛けるも、2011年に会社を売却。海外での再起を決意し、シナモンを創業したものの、調達した資金を使い果たして帰国…。
「システムの受託ビジネスをしながら何とか経営を続けていた頃に、妊娠・出産を経験。このことをきっかけに、新たなミッションが生まれました。当時は過労死が問題に上がってきていた時代。すでに始めていたAIサービスを主力として、次世代のために今の働き方を変えたいと考えるようになりました」
その後、ベンチャーと大企業の事業提携を生み出すプラットフォームの場である「Morning Pitch」に参加。AIプロダクトのプレゼンが大きな注目を集め、2017年に資金調達を得てプロダクトをリリース。事業拡大へと結びつきました。
「先日も、事業の将来性を評価いただき、10億円近く調達しました。いろいろあったけれど、人生なんとかなるんだ、ということはお伝えしたいです」
「まず、基本的にすべての事業は、Problem(課題)とSolution(解決)、この2つがセットということは覚えておいてください」
その上で、失敗も経験したからこその平野さんが伝えたい「4箇条」とは?
<1>不可逆変化なビジネスか
「ゲームやコンテンツのトレンドは、過ぎてしまえばなくなっても困りませんが、インターネットやスマホは、一度使うとそれが存在しない世界には戻れない。それが不可逆変化です」
<2>なぜ今なのかを自問する
「早すぎるタイミング」で失敗を経験した平野さん。“Why now?”は、社会変化や人口動態の変化、顧客の業界の変化などの「デマンド型」と、技術の変化や供給側のエコノミクスの変化などの「サプライ型」で、本当に今が一番良いタイミングなのかを考える必要があると言います。
<3>スケールする仕組みを作る
1 Big Market
マーケットは大きいほど良いが、競合がひしめき、新規参入が難しい側面も。「今は小さいが、急成長が望める」というマーケットが一番とのこと。
2 BizDev Scalability
一つのプロダクトで横展開、アップセル・クロスセルが可能であるなど、事業開発におけるスケーラビリティの可能性も重要。
3 Supply Scalability
人材に求める難易度が高すぎる場合はスケールしにくい。供給側の採用と、エンゲージを考えること。
<4>顧客に求められているプロダクトを作る
「最初に起業したとき、『こんなすごい技術をリリースしたら、みんなが使ってくれる』と思い込んだ。しかし、結果は誰も使わないという状況」と振り返ります。プロダクトに集中しすぎず、マーケットもちゃんと見る。PMF(Product Market Fit)という視点も重要です。
後半は、佐々木かをりさんが進行を務めて議論を深めます。参加者からの質問に答えながら、最初に起業に関心を持ったきっかけ、どのように仲間を見つけたのか、Morning Pitchでのプレゼンの様子、二児の母である日常まで話題が広がりました。
平野さんの信条は、「勘違いレベルの夢を見ること」。
「学生時代はGoogleのように世界を変える会社を作りたいと思い、シナモンを創業してからはAIで働き方を変えたいと思いました。どれも“勘違い”と言われるレベルです。でも、それを臨場感があるレベルで描いていると、実現されている世界が当たり前だと思うようになる。一方で、現実をみると、あれ、全然違うなと。それが推進力になります。」
佐々木さんも「私はそれをVISIONと言っています。それが明確だと、道が見えてくるんですね」とうなずきます。
平野さんがいま見ている夢は、Knowledge managementを変えること。
「今はITツールを使っても、アップデートするなど人が機械に合わせる必要がある。AIとツールが一気通貫してKnowledge UNmanagementになれば、メールや電話でコミュニケーションするだけでKnowledgeが蓄積される。今の働き方が圧倒的に変わる。そんな夢を見ています」
勘違いレベルの夢が、世界を大きく変える。そう確認させてくれる平野さんの言葉。さまざまなProblemがあふれている今だからこそ、女性経営者ならではの視点で、新たなステージへ向かうことができるのではないでしょうか。
シリアル・アントレプレナー。東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。
2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。IOS/ANDROID/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をミクシィに売却。ST.GALLEN SYMPOSIUM LEADERS OF TOMORROW、FORBES JAPAN「起業家ランキング2020」BEST10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019 イノベーティブ起業家賞、VEUVE CLICQUOT BUSINESS WOMAN AWARD 2019 NEW GENERATION AWARDなど、国内外の様々な賞を受賞。
また、AWS SUMMIT 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグTHE YEAR AHEAD サミット2019などへ登壇。2020年より内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に就任。
プライベートでは2児の母。
大学卒業後に通訳や翻訳を提供するコンサルティング会社ユニカルインターナショナルを、2000年に「ダイバーシティ視点でイノベーションを起こす」をミッションにイー・ウーマンを起業。日本初のダイバーシティを数値化する「ダイバーシティインデックス」を発案するなど、ダイバーシティをテーマに国内外で数多くの講演をしている。内閣府規制改革会議を始め、経済産業省、総務省、厚生労働省、法務省、文部科学省など政府各省の審議会等で委員をつとめている。2018年には世界銀行主催の女性起業家を応援する組織We-Fiの日本代表チャンピオンに任命、さらに世界の2000名の女性経営者が所属する世界女性経営者組織(WPO)の日本支部代表に就任するなど、女性起業家・経営者をリーディングしている。