レポート
日時 | 2020年8月5日(水)15:00 – 17:00 |
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講師 | 株式会社アイスタイル 取締役(共同創業者) 株式会社ISパートナーズ 取締役 山田 メユミ |
進行 | 株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長 株式会社ユニカルインターナショナル 代表取締役社長 佐々木 かをり |
東京都が女性経営者を応援する全5回のセミナー「TOKYO女性経営者塾 by N E W」。2020年度の第1回は、初のオンラインでの開催となりました。講師は『@cosme』の創業者、山田メユミさん。仲間とともに起業し、紆余曲折を乗り越えて上場、実店舗や海外展開するまでに成長を遂げた戦略や心構えを伺います。
1999年の創業以来、連続増収を達成し、2019年前期で300億円を超えている(株)アイスタイル。その原点は、山田さんが化粧品メーカー在職中に個人的な趣味で始めたメールマガジンの発行でした。
「自分が興味を持った商品について発信していたところ、驚くほどの反響がありました。そこで、『みんなでつくる、みんなのためのコスメガイド』という仕組みが構築できれば、消費者にとってはもちろん、企業にとっても有益なデータベースになると思いました」
資本金300万円で共同創業、読者ボランティアの支援も募り、ゼロからのスタートで悪戦苦闘しながらも「リアルタイムにデータを集積する動的なサイト」にこだわって、@cosmeを立ち上げます。ところが、その直後にITバブルが崩壊。資金繰りがとん挫しますが、エンジェル投資家によって窮地を脱するという波乱に満ちた体験も。
そんななかでサービスは着実に消費者と企業双方のユーザーを伸ばし、2012年には東証一部への上場を果たしています。
ユーザーからは「口コミサイト」と誤解されがちな@cosmeですが、事業構築の目的はあくまでもマーケティングのプラットフォームをつくること。生活者のリアルを伝える、業界を横断するプラットフォームがあれば、消費者にとって商品選びに役立つことはもちろん、企業にとってはインターネットが存在する前は困難だった競合他社の顧客データ共有も可能です。
「ユーザー情報を共同マネジメント化することによって、顧客になる可能性のある方々に対して非常に効率よくアプローチができるプラットフォームが出現します。当時、我々はそれをCmRM (Community Relationship Management)の実現と表現していました」
現在、@cosmeには30万件を超える商品登録があり、約1500万件の口コミが寄せられています。その情報を、化粧品やファンデーションなど商品ジャンルの分類軸だけでなく、価格帯、ユーザーの年齢や肌質、百貨店やドラッグストアなどの購入場所といった多様な属性を持たせて蓄積。さまざまな分析軸での再集計を可能としています。
山田さんが目指してきたのは、「社内Asset」(人材のリソースやノウハウ)軸ではなく、「User Centric」を軸にした事業拡大。その考えから、@cosmeではECサイトも展開。さらに、国内で24カ所の実店舗もオープン。店頭では商材をブランド別でなくランキング順やテーマ別に並べるなど消費者目線の工夫で、日本でNo.1の売り上げを誇る化粧品専門店に成長させています。
「株主や外部からは、メディア事業だけにすればもっと利益率が高いでしょうとご指摘いただくこともありますが、それでは我々が目指す『生活者中心の市場の創造』にならない。利益率が高いメディア事業を柱としながら、利益が出にくい小売り事業などへの領域へ戦略的な投資をする。そして、新たな時代のネットとリアルの融合を目指してマーケットを創造する。それが、我々の目指す姿です」
後半は、佐々木かをりさんが進行を務めて議論していきます。
「私も2000年にイー・ウーマンを創業しているので、当時の状況がよくわかります。起業したベンチャーは多いが、発展できなかったところもある。その分かれ道は何だったと思いますか?」
佐々木さんの問いに「得意領域が違う、志をともにする仲間と出会えたこと」と答える山田さん。「私一人だったら、そもそも経営者になりたいというタイプではない。こういうビジネスモデルを社会につくりたいという想いだけで走ってきたのが正直なところです。特に今の時代、事業を大きくしたいのであればチームの強さというのはあると思います」
参加者からの「障がい者雇用の社会的な事業を手掛けているが、出資の提案が多く来るようになり迷っている」という質問には、「慎重に時間をかけて、大事にしながら走らなければいけない事業。そういった“時間軸”を共有できる資本家に入ってもらうこと」というアドバイスも。その他、家族経営からの拡大、共同事業の資金の課題、グローバル展開の戦略などの質問にお応えいただきました。
さまざまな紆余曲折を経てビジネスを拡大してきた山田さん。現在はコロナ禍もあり、社会全体に課題が山積しています。そんななかで走り続けるために心掛けていることは、「不安なときは原因をとことん追求し、今やるべきことを明確にする。必要な学びは、走りながら。そして常に感謝を忘れず、よい仲間や恩師に恵まれるように努力すること」。
先の見通しを持ちにくい時代ですが、一方で、「今まで無理だと思っていたことがガラリと変わる、ゲームチェンジのタイミングでもある」と語ります。変革期の今だからこそ、柔軟な発想で道を拓き、ビジネスを拡大させる好機といえるのではないでしょうか。
1995年東京理科大学基礎工学部生物工学科卒。化粧品メーカー在職中、個人の趣味で始めたメルマガへの反響をもとに、コスメ情報サイト『@cosme』を企画立案。サイト立ち上げに参画し、1999年(株)アイスタイルを共同創業。現在も同社取締役を務めるほか、2016年には未就業女性のスキルアップおよび就業支援を目的とした(株)ISパートナーズを立ち上げ、代表取締役を兼任。また、経済産業省・産業構造審議会消費経済部会基本問題小委員会委員、総務省・情報通信審議会委員、内閣官房・知的財産戦略本部有識者本部員等も歴任。「Forbes JAPAN」が主催する『Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2017』において、個人部門で「グランプリ」を受賞。
大学卒業後に通訳や翻訳を提供するコンサルティング会社ユニカルインターナショナルを、2000年に「ダイバーシティ視点でイノベーションを起こす」をミッションにイー・ウーマンを起業。日本初のダイバーシティを数値化する「ダイバーシティインデックス」を発案するなど、ダイバーシティをテーマに国内外で数多くの講演をしている。内閣府規制改革会議を始め、経済産業省、総務省、厚生労働省、法務省、文部科学省など政府各省の審議会等で委員をつとめている。2018年には世界銀行主催の女性起業家を応援する組織We-Fiの日本代表チャンピオンに任命、さらに世界の2000名の女性経営者が所属する世界女性経営者組織(WPO)の日本支部代表に就任するなど、女性起業家・経営者をリーディングしている。